ファーレンスに響く十三音階(トレデキムスカーレ)

「両目が……赤い……それにこの、白い髪……」
「御神様じゃ! イシュタム様のご再臨じゃ!!」
「急げ! すぐ祭壇を用意しろ!! ギムの花をありったけ取ってこい!! あと縄も忘れるなよ!!」


……大人たちが騒ぎ喚き、右往左往する中で。
その少女の兄となった少年はただ一人、優しくその手を握っていた。


「ボク、ナチャ。おまえの、お兄ちゃんだよ」
「……だー……」








「……お兄ちゃん」
「……エキトたちを、どうした?」
「……殺した」
「どうやって?」
「お兄ちゃんなら、わかる?
 あのね、いきものの首には、糸があるの。
 その糸を、こう、ぷつんって」


 そう言い、少女は数メートル先の、飛んでいる蝶を指さして。
 人差し指と中指で、鋏を模したような動作をした。
 ――それだけで。
 先ほどまで飛んでいた蝶は地面に落ちると、それっきり動かなくなった。


「……うん、そうか」
「お兄ちゃんも、こわい?」
「どうして、エキトたちを殺した?」
「あのね、エキトたちは、ヌムたちにいたいことしてたの」
「……あいつら……」
「ヌムもアミアラも、いたいって。苦しいって。やめてって、泣いてたのに。
 だから。」
「……そうか」
「それから、だれもあたしとおはなしてくれない。
 ……お兄ちゃんも、そうなる?」
「ならないよ。
 ――けど」


 乾いた音。
 それは、少年が妹の頬を張った音。

 ――果たして、少女は異能を持っていた。
 そんな少女に、頬を張るような真似ができるものなど、あるはずがない。
 あるはずがない……はずだった。大人たちはみな、そう思っていた。
 この少女は思うがままに生き物を殺す、死の神なのだと。
 だが、少女には「兄」がいたのだ。
 髪こそ他の者と同じ黒ながら、右目にのみ神の証である赤い瞳をもつ、少年が。

「……ぇ」
「そんなことをしちゃ、だめだ」
「お兄、ちゃ……」
「約束するんだ。
 もう、簡単に生き物を殺したりしないって」
「……どうして? どうして、殺しちゃいけないの?」
「いけないわけじゃない。そうしなきゃならないこともある。
 けど。それがどうしてなのかわかるまでは、ダメだ」
「わかんないよ」
「……イシュ。ボクが死んだら、どうする?」
「……え」
「どうする?」
「……。
 お兄ちゃんが、死んだら……泣く、と、思う」
「……ありがとう。
 でもね、エキトにも、妹はいたんだ。さっきお葬式で、泣いてたよ」
「あ……」
「……わかったか?」
「……うん」
「さ、帰ろう」
「……はい」



 少年は、このままうまくやっていけると、思っていた。
 少女は、このまま二人で生きていけるのだと、思っていた。

 しかし。二人の他は、誰もそうは思っていなかった――。



「ふざけんな!!」
「落ち着け、ナチャ」
「落ち着くのはそっちだ! イシュを殺すだなんて、正気かよ!!」
「あれは、在ってはならない存在なのだ」
「なんだよそりゃあ!!
 俺が生まれた時は、『神の騎士を授かった』とかって、あんなに喜んでたじゃねぇか!!
 ナナ族との戦に勝てたのだって、コ族が和平を申し込んできたのだってその――、」
「お前は騎士だ。選ばれた存在ではあっても、神の従僕に過ぎぬ。
 だがあれは神そのものだ。あの力は、この世界には過ぎたものなのだ。
 神は人の世にあってはならない。殺すのではなく、神々の国へとお還しするのだと考えろ」
「……俺が、そんなバカな話を聞き入れると思ったのか?」
「……思わん」
「なら――っ!?
 親父……!! 酒に、薬を…………!?」
「御神にも、同じ薬を飲ませた。
 少し寝ていろ。その間に、終わる」
「親父――――――!!」



 そして、目を覚ました少年が目にしたモノは。
 首を括られ、皮を剥がれた――無惨というのも躊躇われるような、妹の姿だった。












「――おるかの、アドラの坊主?」
「ギョ族の――サジ爺さんか」
「今は『卜占翁(アガレス)』と名乗っておる」
「……俺を、どうするつもりだ?」
「さぁて、のぅ。それは儂が決めることではないのでな」


 ――足音?


「危険です、王(バール)!!」
「そのためにお前がいるのだろう、アナト?
 ……それに、話の通じない相手ではなさそうだ」
「奴はたった独りで屈強で知られたアドラ族を皆殺しにした、『死神の騎士』です!
 果たしてヒトか獣か――、」
「何を言ってるんだ。どう見たって、ヒトじゃないか。
 義弟(ソロモン)は、何か異能でも持っているのではとか言ってたが。ま、それだけのことだ」


 ――この惨状を見て、なお俺をヒトと呼ぶのか。
 何者だ――?


「君が、アドラ族のナチャかね?」
「……そうだ。
 俺を、どうするつもりだ?」
「とりあえず、血を洗って着替えてもらうか」
「……は?」


 ――こいつは、何を言ってるんだ?


「……俺を、まるで人間のように扱うのだな」
「人間だろう? 違うのかね?」
「……。」


 知らないはずは、なかろうに。
 奴は『死神の騎士』の力を目の当たりにして、なお――、


「……わかった」
「王!? いったい――、」
「行くところがなければ、我が軍と一緒に来るかね?
 戦闘以外にも、人手が足りなくてね」
「……『死神の騎士』に、飯炊きでもやらせる気か?」
「料理が得意なら、それでも構わんさ」


 ――本気だ、こいつは。
 俺がやると言えば、本気で飯を作らせかねない。


「……あんた、名は?」


 果たして莫迦か、大物なのか。
 

「慈雨王ベルセリオス(バール・セリオス)。
 これより、中原に覇を唱える者だ」


 その芝居がかった物言いに、苦笑して。
 俺は苦いものを、胸に認めた。



 ――この莫迦と、もう少し早く出会っていれば。
 イシュは死なずに済んだのではないか、と――。












 後世の人は云う。
 真鍮の七十二臣が序列三、『黒騎士』ヴァサーゴは、かつてファーレンス平原で信仰されていた死の女神に仕える騎士であったと。
 現在でもその地方では、彼の命日と伝えられる日に、赤い糸を首に巻く風習があるという――。





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ゲームにするには半端なエピソードは、ここに書くことにした。
『人形たちの森』本編でもアレだが、ヴァサーゴ家の暴走癖は遺伝的なもののようでw

シアワセノカタチ

――痛い。痛い。痛い。苦しい。苦しい。痛い。痛い。苦しい。苦しい。痛い。苦しい。

「おきてるの?」
「……っ」

『この部屋』に容れられてから、もうどのくらい経つのだろう。

「いたい?」
「……なんでもねぇ」
「くるしい?」
「なんでもねぇっつってんだろ!!」

……自分でもわかっている。
子供の声で無理にドスを効かせる様は、滑稽ですらある。

「くそっ……」
「ねれない? なら、わたしとくっつく?」
「馬鹿いってんじゃねぇよ……ッ!!」
「きゃっ!?」

勢い余って、俺は『彼女』を突き飛ばしてしまった。
それをとがめる者など、ここにいるはずもない。……が、何故か。嫌な味が、口に広がる。

「悪い。……寝るわ」
「……」

しかし『彼女』は。それでも俺に身をすり寄せてきて。

「いたい、いや。くるしい、いや。
 ……だから。わたしで、きもちよくなって?」

その、幼い顔に不釣合いなほどの艶を込めて。
『彼女』は、俺の耳に囁いた。

「――くそっ!!」

もう、どうなっても構うものか。
どうせもう、何度もこうしてきたんだ。

「ん……っ」

この境遇への憤怒。そして、『自分がされてきた』ことをそのまましている自分への軽蔑。
それらが入り混じった捨て鉢な気分で、俺は『彼女』を乱暴に押し倒し、その幼い躯を貪った。





『彼女』には、名前がない。
俺にも、今や名前はない。

彼女はもとより、『兵士の生産』と『自身の再生産』を課せられた『装置』にすぎない。
どこかでさらわれて来た子供か、それとも買い取られてきた『もと人形』か。それとも、ここで産まれたのか。
それは、彼女自身にもわからないのだろう。

「あっ……ん……はぁ……」
「どうだ? 気持ちいいか?」
「あっ、あっ、あっ、いい、きもちいい……!!」

屈強な男たちに犯され、彼女はかすれた喘ぎ声を上げている。
その声に苦痛はなく、抵抗するそぶりも見せない。

「くっ……」
「オラ口あけろ! 歯ァ立てんじゃねぇぞ!!」
「うっ……ぐ……うぇ……っ……」

彼女には、性交を『嫌なこと』と感じる発想がないのだ。
物心つく前から繰り返される、時には薬を伴っての性交。
彼女にとってそれは、『当たり前の日常』であり、『日々の習慣』であり――唯一の娯楽であり、また自身の幸せそのものでもあった。

……俺とは、違って。



「どうしたの? なんで、つらいの?」
「わからねえのかよ……!?」
「わたし、きもちいい。みんな、きもちいい。みんな、よろこぶ。しあわせ」
「俺は……俺は、『オマエ』とは違うんだよ!!」
「……ちがう? どうして?
 みんな、いってた。おなじだって。わたしとあなた、おなじだっ――、」
「違う!! 俺は違う!!」

ほんの数ヶ月前までは、俺も他の男たちと同じ――彼女を犯す立場だった。
だが。首領の、「女が足りないから『代わり』を見繕っておけ」の一言によって。
小柄で声変わりもしていないというだけの理由で、俺は女物の服を着せられ、名前すらも奪われてここへ放り込まれたのだ。
俺は、彼女とは違う。俺は、俺は――、

「でも、あなた、いってくれた。
 わたし、きもちいいって。くっついてると、しあわせだって」
「……っ」

おためごかしの、空台詞。
しかしそれは。彼女にとっては、真実そのものなのだ。
おそらくは壊れて『廃棄される』その瞬間まで。彼女は、暖かな楽園に居続けるのだろう。
……『幸せ』という名の、幻の楽園に。

「だから、くっつこう?
 あなた、きもちいい。わたし、しあわせ。ね?」
「っ――!!」

何もかもをぶちまけてしまいたかった。
こんな生活は、幸せなんかじゃないと。『外』では、こんな生活をしている者など普通ではないと。
しかし、それを彼女に理解させることなど、できるはずがない。かえって余計な言葉により、彼女を危険に追いやるだけだ。

「くそっ!!」




そうして。

犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。犯して、犯されて。

本当に、自分の名前を忘れてしまった頃。
その楽園は、あっけなく崩れ落ちた。




「……? 騒がしいな……?」
「どうしたの?」
「わからない……」

壁に耳をつけ、聞き耳を立てる。
走り回る足音。金属音。何かがぶつかり合う音。これは――戦闘の準備?

「……が、すぐ……で、はやく……」
「……ことだよ!不和候(アンドラス)……て、山二つむこうじゃ……」
「……よ! とにかく逃げ……、もう……」

あたりが静まり返る。皆、出払ってしまった――?
そして、聞こえたあの言葉。確か今代の不和候(アンドラス)といえば、あの噂の斬竜卿(ドラゴンスレイヤー)――、

「逃げるぞ」
「え?」
「いいから手伝え! 扉を壊すんだ!!」
「どうして?」
「――くそっ!!」

彼女はぽかんと口をあけたまま、動こうとはしない。
それはそうだ。彼女はここしか知らない。ここの日常以外を、想像する材料すら与えられていない。
ましてや。ここを出たいなんて、思うわけがない――!!

「くそっ……!! はやくしないと、誰かが――――?」
「えい、えい、えい」
「おまえ……?」
「あなた、くるしそう。くるしい、いや。
 だから」

……本当に、それだけの理由で。
彼女は、俺が苦しそうだという理由だけで、自分が何をしているのかもわからないままに、俺の脱走を手伝おうとしていたのだ。

「あぁ……ありがとう」
「え? あり、なに?」
「……あとで教えてやるよ。ここを出たらな」
「??」

そうだ、教えてやる。
空の青さを。風の涼しさを。陽の暖かさを。そして、そして――、




「ひゃっ!? なに、これ!?」
「水、だ。流れているのは川ってんだ」
「み、ず?」
「……ま、少しずつ覚えてこうや」
「きゃーっ!?」
「お、おい!? 大丈夫――っ!?」
「えへへ、きもちいい」
「おいおい……ずぶぬれじゃねーか」
「……ね。きもちいい、しよ?」
「お、おい!?」



あの山の暗殺者集団がどうなったのかは、わからない。
俺がしたことは、正しかったのだろうか。あるいは、新しい『幸せ』を教えるなど、俺の身勝手でしかなかったのだろうか。
彼女を連れ出したことは、果たして彼女の人生にとっては良いことだったのかどうか。あそこで一生を『幸せ』のまま終えたほうが、この厳しい世界では良かったのか。

――答えは、いまだ出ない。



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俺「という話が某ニュースから見えたのだが」
友「まさに 外道」


久々の更新がこれだよ!

仕方ないといえばそうなんだろうけど。

「2428」のゾーン分けは、百合&801Verを作りたくなるくらいゐラッとした。

……しかし、何も知らない人からすりゃそう見えるんだろーなぁとも思うわけで……。

Who killed laughing skull ? I, said the little girl,with my Katar,I killed laughing skull.

http://togetter.com/li/23919

頭蓋骨持ち歩き少女。ちょいと脳内探してみたらいました。
所要時間15分ほど。……いや考えてない(エロゲで使ってる世界から引っ張ってきただけ)からそりゃ短くて当然なんですが!













――――――――――――――――――

まだ十になるかならないかという小さな女の子が、たった一人で夜の街を走っていました。
大きな包みを抱えているせいか、その足取りはなんとも危なっかし――あらあら、早速転んでいます。





「おわっ!? ちょ、おま、俺の頭! 頭どこいった!?」
「〜〜〜!? ――――!!」
「おー、あったあった。あっぶねーな、こんな人ごみで走っちゃダメだぞ、お嬢ちゃん?」
「……、……。」





ぶつかった大柄な骸骨に、女の子はぺこぺこと頭を下げて。
ちょっとだけ走るペースを落とした女の子は、やがて大通りの、酒場の前へと差し掛かりました。





「?」
「ケタケタケタケタ……ん? どうした、そこのお嬢ちゃん?」
「――??」
「ほー、これがわかるのかい?
 おうともさ。これはやっとこ去年完成した、マスター謹製の竜骨酒だ!」
「……。」
「おいおい、やらねーぞ? 何しろ、恐竜の化石なんて貴重な――」
「カカカカカ。そんならてめーが酒に浸かってりゃいいじゃねーか。骨だけの躯でそんだけ酒かっくらってりゃ、さぞかしいいダシが出るだろうぜ?」
「おお、そりゃ名案だ!」
「なーに言ってんだい! あんたが酒に浸かってたら、片っ端から呑まれちまうよ!」
「ちげえねぇ!! ハハハハハ」
「……。」





すっかり出来上がっている骸骨と、屍鬼たちの前を通り抜け。
女の子はようやく立ち止まりました。
……しかし落ち着いたのもつかの間。小さな子供の骸骨が、足を突っかけて少女へと転び倒れこんでしまいました。
大きな乾いた音がして、少女の包みと子供の骨が散らばります。





「あははは、――あっ!?」
「!!?」
「ご、ご、ごめんなさい!
 えーと、あれ? あれ、ぼくの足が!? うわ、手が!? うわアバラが全部!?」
「……、!! ……?」
「あ、ありがとうお姉ちゃん! ……ぎゅっ!?」
「ったく、走り回るんじゃないっていつも言ってんだろ!!
 ほら、ちゃんと謝んなさい!!」
「痛い痛い痛い!! 後ろから手突っ込んで奥歯ガタガタ言わせないで〜!!
 ご、ごめんなさいお姉ちゃん……」
「〜〜〜〜〜〜〜!? 〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
「悪かったね、この子はあとでとっちめとくから。
 ……ほら、これあんたの包みだろ?」
「! ……!!」
「あぁいいよ、お礼なんて。それじゃあね」
「〜♪」





母親らしき骸骨に渡された包みを、大事そうに抱えなおし。
女の子は大通りを通り過ぎると、小高い丘へと上ります。





「……、……。……、……。」





そうして、女の子が丘のてっぺんまでたどり着くころには。
夜が白々と明け始めていました。





「――やぁ、君か」
「……。」





そこで、女の子を待っていたのは……同じくらいの年頃に見える少年でした。
……いえ、『少年』というのは正しくないのですが。この場は、そういうことにしておきましょう。





「……楽しそうだね、みんな」
「……。」





みんな、とは。あの死者たちのことでしょうか?
しかし女の子は、悲しそうに目を伏せるばかりです。





「けれど……本当に動いてほしいのは、『それ』なんだね」
「…………………………。」
「よければ、『それ』が誰なのか、教えてもらえるかな?」





女の子は、長く長く悩んでいましたが。
やがてひざの上で、その包みをほどき始めました。





「…………。」





――それは。
漆と金箔で塗り固められた、人間の頭蓋骨でした。





「……にーちゃ」
「お兄さん、か……」
「にーちゃ、しゃべらない。なんで? 怒ってる?」
「……どうだろうね」
「にーちゃ、ラダのこと嫌い? 嫌いだから、だからラダのこと、ころそ――、」
「さあ、てねぇ……。
 ま、待つしかないんじゃないかい? いつか――『本人』が、話してくれるまで」
「……ん。ラダ、待つ。ここで待つ。ずっと、ずっと」
「そっか。……ごめんね、邪魔をして。じゃあ、さよなら」
「……………………。
 さよなら。でも…………またね、ソロモン」
「あぁ、またね」








何百もの遺骸を、百鬼夜行のごとく立ち上がらせようと。
千年後まで怖れられる、『死霊都市』を築き上げようと。
……女の子がほんとうに黄泉還らせたかった、たった一人だけは呼び戻せなかったそうです。


                                 ――――――『中原国物語』より